高校の時に、検尿があった。
朝学校につくと、教卓の上に小さな箱が置いてあって、生徒は各自
家で採取した尿をその中にいれることになっていた。
私は家が近いこともあって、誰よりも早く登校していた。
だから検尿を教卓の上に入れたのも私が最初だった。
検尿を箱に入れて、いつものように予習していると、クラスメートが
登校してきて次第に話し声が聞こえるようになった。
私も友達と話をして授業開始を待っていた。少ししてチャイムが鳴り
先生が教室に入ってきてホームルームになった。
先生は教卓の上に置いてある検尿が入った箱を見て、なにやら数を数えていた。
みんながちゃんと提出したかどうかを調べているようだった。
「おい水沢、お前だけだぞ出してないの」
どうやら、水沢さんだけが検尿を出していないようだった。クラスメートが聞いている中で
なぜ検尿を出していないのかと聞かれるのは酷だ。水沢さんの検尿…。
誰もが一瞬、水沢さんが個室で陰部に紙コップを当てている姿を想像してしまう。
水沢さんも、みなの気持ちを理解しているのか、赤面して返事をする。
「先生、だ、だしましたよ!」
すると先生が
「嘘いえ、お前のだけここにないんだよ」
「私はいつも一番最初に教室にきてます。だから検尿も一番最初に出しましたよ」
そう、水沢さんとは私のことなのだ。私は自分の検尿がなぜなくなったのか
必死で考えた。確かに検尿は箱に入れたはずだ。ないわけがないのだ。
「おい、誰か水沢の検尿をしらないか」
先生がクラスメート全員に呼びかけた。困惑した表情であたりを見回し、
お前とったんじゃないかと言い合う男子。私の表情をうかがう者もいた。
自分の尿の所在を、50人の人間が話し合う。これほど恥ずかしいことはない。
「先生、たぶん田中が盗ったんだとおもいまーす」
誰かがそう言うと、田中君は私以上に顔を真っ赤にして立ち上がり
「なんで俺がとらなきゃいけないんだよ!!」
「田中は水沢のことがすきだからなー」
「フザけんなよ!!好きでもなんでもねーよ!」
私はこの時、ショックを受けた。実は、私は田中君のことが好きだったからだ。
あんなからかわれ方をしたら、たとえ私のことが嫌いじゃなかったとしても
好きじゃないと言うしかないのはわかる。わかっているんだけど、
悲しくて、気づいたら涙を流していた。
「先生、水沢さんが…」
私の席の横にいた女子がそう言うと、クラスメートは一斉に私を見た。
みんなの視線が、私一人を疎外しているようで、一層悲しくなった。
「先生、もうこんな話やめようよ!」
突然、水田さんが声を上げた。水田さんは私と仲良しで、お昼ご飯はいつも
一緒に食べていた。
「みんなどうかしてる!水沢さんは私達の仲間なんだよ!私達は
困ってる仲間を助けてあげなきゃいけないんじゃない!それなのにみんなで
水沢さんを馬鹿にして!こういうのやめようよ!」
水田さんの演説に、誰もが黙って頷いた。
「そうだな。俺達、水沢のこと全然気遣ってなかった。水沢は検尿がなくなって
一人寂しい思いをしてたのに、誰一人水沢の検尿を真剣に探そうとはしなかった。
よし、みんな、今から水沢の検尿を教室中調べて探そうぜ」
一人の男子の提案に、みんなは快く賛同してくれた。
「まってくれないかな!!」
真面目一徹で名を馳せていた、学級委員の山口君が立ち上がった。
「君たち、これから一時限目が始まるというのに、検尿探しなんか始めるのかい?
僕達は学校に検尿を探しにきてるわけじゃないだろう?勉強をしにきてるんだろう?
だったら、さっさと教科書を机の上に出してえんぴつの一本でもといだらどうだい?」
「うるせーぞ山口!いまみんなの気持ちが団結していいムードになってんのに
何横槍いれてんだよ馬鹿!そんなに東大いきたきゃ電車代だしてやるから
今すぐ行って東大の入り口で弁当でも食ってろ!」
検尿探しを反対する山口君に、体育会系の男子達は猛反発した。
「静かにしなさい!山口がいいたいことはわかる。でもな、先生は今回の件で
クラス全員が一丸となって一つの問題に対処できるってわかった。
それが何より嬉しいし、勉強よりも大事なことだと思うんだ。だから
今日の一時限目の数学は、水沢の検尿探しに当てたいと思うんだがどうだ?」
先生のその提案に、山口君以外のみんなは賛同し、すぐに検尿探しが始まった。
「待ってくれませんか!!」
みんなが立ち上がり、床に視線を落とし、私の検尿を探し始めた時だった。
山口君は再びみなに呼びかけた。
「僕は今回の検尿紛失事件の裏に、何かとてつもなく恐ろしい陰謀が潜んでいると
推測します」
「根拠のない陰謀説はアポロの月面探査詐称疑惑だけにしてくれないかな?」
オカルトオタクの佐伯さんが、珍しく発言した。
「今回の件はどう考えても、水沢さんの尿を利用して黒魔術の儀式をとり行おうとする
変質的な男子の仕業よ。女性の尿は元来、ニエとして使用されてきた。
とりわけ処女の尿は重宝されるから、水沢さんの尿が盗まれたのにも納得がいく」
「待ってくれ!ということはつまり、水沢は処女なのか!?」
男子のその一言に、教室内は騒然となった。
「そう。水沢さんは処女なの。このことを知っているのは、いつも水沢さんと
食事を共にしていた水田さんと、二人の会話を盗み聞きしていた私しかいないはず。
だから犯人が誰なのかは、おのずとわかるのよ!!」
佐伯さんは言い終わって、犯人の方へ視線を向けた。そう、水田さんに。
「ま、まってよ!私が犯人だっていうの!?私は水沢さんの親友なんだよ?
親友の尿を盗むようなことはしないよ!!」
「どうかしら?好きな男と友達、一つしか選べないのなら、ほとんどの女は
男をとるでしょう!!あなたもそうなんでしょう水田さん!あなたは、大好きな山口君の
いう事を聞いて、水沢さんの尿を盗んだ!!」
佐伯さんは振り返り、山口君を睨んだ。
「おいおい!待ってくれ!佐伯君、君はおかしなことばかり言う!まず第一に
僕と水田さんができているという根拠はなんだい?」
「あなた達二人の情事を、盗み見していたの」
「しすぎだろ!!」
男子が突っ込んだが、佐伯さんは無視していた。
「まあ聞きなさいよ。山口君、あなたは今日の一時限目の数学のテストが心配だった。
なぜなら、あなたは最近水田さんとの情事が原因で勉強に身が入らなくなっていたから。
机に向かっていざシャープペンを握れば、嫌でも浮かんでくる水田さんの裸身。
性欲が学欲を押しつぶし、山口君の未来をも雲散霧消にしようとしていた。
あせったあなたは、どうにかして成績をあげなければいけないと考えた。」
佐伯さんの推理は、なおも続いた。
「あせったあなたは、黒魔術を用いて成績を高めようと考えた。しかし魔術を使用する
ためには、ニエが必要だった。そのニエこそが処女の尿、つまり水沢さんの検尿だったの。
水田さんから水沢さんが処女であることを聞いたあなたは、自分の検尿を
箱に入れる際に、水沢さんの尿を盗み、黒魔術に使用した!!」
「はっはっはっは!笑わせるね!じゃあ、僕はすでに黒魔術を使用したというんだね?
ならば聞こうか。僕が黒魔術を使用したという証拠はどこにある!?」
「証拠はあなたの発言の中にあるわ。あなたが使用した成績向上の黒魔術には
制限時間がある。魔術を詠唱後、数時間しか効力がない。だからあなたは
検尿探しのせいで数学の時間がつぶれるのを阻止しようとした!!」
「ぬぐっ!!!!」
山口君を指差した佐伯さんの表情には、余裕の笑みが浮かんでいた。
「あの…ちょっと、いいか?」
山口君と佐伯さんのやりとりを見ていた田中君が口を挟んだ。
「佐伯のいう成績向上の黒魔術なんだけどさ、それって普通の人が知ってるような
ものなのか?」
「知るわけないじゃない。魔術書は裏世界で密かに流通するだけで、一般人が
おいそれと手に入れられるようなものじゃないわ。私だって一冊しか持ってないんだから」
「じゃあ、山口はなぜ、黒魔術を使えるんだ?」
「え?」
「そうだ!僕は黒魔術なんか使えないぞ!」
山口君が無実の罪を晴らそうと必死に叫んだ。
「山口よりもさ、むしろ一番の容疑者は佐伯、お前なんじゃないか?だってそうだろう?
黒魔術を使用できて、水沢が処女であることを知っているのはお前だけなんだから」
クラス中の視線が、山口君から佐伯さんへと移る。
「違う!私じゃない!そうだ!誰かが私の魔術書を盗み見たに違いないわ!きっと
そうよ!昨日も机の中に入れたまま帰っていたから、この教室にいる全員が
魔術書を見る機会があったのよ!!あなた達みんなが容疑者よ!」
「ふざけんじゃねぇぞ糞ブス!!」
数人の男子が怒り出す。
「待って!私じゃないって証拠があるの!私も処女なの!だから私には水沢さんの
尿を盗む必要なんてなかったのよ!自分ので事足りるの!!」
「お前が処女だってことくらいみんな知ってるよ!!」
「じゃあ結局犯人は何のために盗んだんだよ!」
「やっぱり単なる変態の仕業だろ!つまり田中だろ!」
「なんで変態=俺なんだよ!!」
「オラ!女子ども!お前らだって容疑者なんだぞ!女の妬みは凄まじいからな!」
「はぁ!?マジでキモいんですけど!」
飛び交う罵詈雑言。つかみあい、殴り合い、互いに罪をなすりつける。
醜い獣達の饗宴。先生も、開いた口が塞がらないようだった。
「みんなやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
私はとっさに叫んでいた。静まり返る教室。
「もう一回検尿とるから…それでいいじゃない」
一同「たしかに」
ムーディ勝山 - Wikipedia
それがTumblr
*やばい、先に言われた。Tumblrって右から来たものをただただ左へ受け流しているだけですよね。
間にオレを通っているよ